四六時中
真夏の果実波の音にときどき声が紛れて聞き取れないところまでなんだか 綺麗でした知らない人の歌を知らない人のまま 聴いている名前も そこにいた理由も何ひとつ知らないのにその人が歌っていたということを私は 今日の海と一緒に覚えているのだと思いますそういえばどうして四と六なのだろう と由来を調べてみました四×六=二十四二十四時間で 一日中もともとは一日を十二刻で数えていたころの二六時中 という言葉が二十四時間制に合わせて変わったのだそうです時間の数え方が変わっても一日じゅう と伝える言葉は必要だったのですねあんなに切実な歌のなかに答えの決まったかけ算がそっと入っていたことが私には 意外でした誰が計算しても二十四になるのにその時間をどう感じるかは人によって違ってしまう海を見ているうちにいつの間にか過ぎた時間も誰かの返事を待ちながら何度も確かめる時間も時計のうえでは 同じなのですねその心許なさがあの旋律のなかでは少しも 隠されていなくて海で聴いていたからでしょうか声を遮る壁も留めておく天井もなく歌は歌われるそばから遠くへ ほどけていきましたそれでも私の耳には残っているあの人にとっては何度も弾いてきた曲だったのかもしれない私が立ち去ったあとも歌は続いていたのかもしれない私の知らない始まりがあって私の知らない続きがあるその途中をほんの少しだけ 聴かせてもらった旅先で出会う景色にも人にもそういうところが好きなのだと思います四六時中の意味を知った今あの場所でもう一度聴いたらどんなふうに 聞こえるのでしょうけれど 同じ海へ行けたとしても今日の歌を待つことはきっとできませんねあの人がいて私がたまたま通りかかってその曲が歌われていた約束のなかった出来事だから思い返すたび少し こぼしてしまいそうになります忘れたくなくて今夜はこうして言葉にしておきます秋の海で真夏の果実 を聴いたことその声の向こうでも波はいつも通り寄せては 返していた こと
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